イリオモテヤマネコをはじめとする希少種や固有種が息づく西表島は、世界的にも認められた貴重な自然の宝庫です。令和3年7月にこの島が世界自然遺産に登録されたことにより、竹富町では「竹富町観光案内人条例」を制定しました。この条例は、西表島の陸域で自然体験型のガイドツアーを営む事業者に対し、「竹富町観光案内人」としての免許取得を義務付けています。免許取得の際には、観光客の安全確保や自然環境保全に関する一定の要件を満たすことが求められます。これにより、質の高いガイドによるツアーが提供されることが保証されます。竹富町観光案内人条例の運用を通して、竹富町は二つの大切な目標を追求しています。一つは、観光客の安全を守ること。もう一つは、西表島の貴重な自然環境を保全することです。これらの目標を達成することで、持続可能な自然体験型観光を実現し、地域社会の発展を目指しています。
埼玉の出身ですが、40年前に沖縄に移住し西表島でダイビング業界でのキャリアをスタートしました。当時は島に誘客するために旅行会社やイベントなどで宣伝活動をしていましたが、旅行のスタイルが変わったりテレビや映画の影響もあり徐々に観光客で賑わうようになりました。
そして、西表島が世界自然遺産の候補地に挙がり本格的な調査が始まったことで、オーバーツーリズムの問題が浮き彫りになりました。特に、ピナイサーラの滝などの人気スポットでは、夏場の混雑により自然環境への負荷が増大しています。人々の足跡が自然に残ったり、トイレの不足など、観光による自然環境への影響が顕著になっています。
この問題に対処するため、竹富町では「竹富町観光案内人条例」を制定し、自然体験型ガイドツアーを提供する事業者に対して、免許取得を義務付けています。これにより、観光客の安全確保と自然環境の保全に配慮した質の高いガイドツアーが提供されるようになりました。また、西表財団の設立により、これらの取り組みを支える組織的な体制が整い、持続可能な観光の推進に向けた基盤が築かれています。
訪問税も導入が検討されており、住民と観光客のためのインフラ整備等の目的で資金確保する考えがあります。
案内人条例は2020年から施行され、新型コロナウイルスの影響で一時停止した後、2022年に本格的にスタートしました。現在、100を超える事業者が登録されており、海域ワーキンググループや山域ガイドなど、多岐にわたる分野で活動しています。条例の中にはレスキュー技術の必須化やそれに伴う費用の負担など、従来のやり方では対応できない新しい要素も加わりました。そのため新旧のガイド間で意見の相違がありました。しかしながら、観光業界の持続可能な発展を目指し、自然環境を守るためには、これらの取り組みが必要です。相違がある中でも、共通の目標に向かって進むことが、西表島の豊かな自然を未来に繋げることになると思います。
自然保護と観光業のバランスを考える際、事業者の申請をどの程度まで認めるかという問題があります。現在の体制では、事業者の数に上限を設ける具体的な基準がなく、これが将来的にどのように管理されるべきかはまだ結論が出ていません。西表島が世界自然遺産に指定されるためのモニタリング調査が始まってから約3年が経過しましたが、自然が壊れるギリギリの限界を示すデータはまだ十分ではありません。長期間にわたるデータ収集と分析が必要です。
このような状況で、西表島の自然を守りつつ持続可能な観光を推進するためには、事業者、地域コミュニティ、行政が協力し、柔軟かつ実効性のある解決策を見出していくことが大切だと感じています。
その一つの活動として「MMO」-マイボトルで水おかわり!西表島- はペットボトルを買わなくてもいい、捨てなくてもいい島にしたい思いからマイボトルを持参すると島にある給水どころで無料でお水を入れてくれるプロジェクトも展開しています。
國見さんは2006年から西表島に来ており、2015年に一度島を離れましたが、再び戻ってきました。離島と本土を行き来する中で、地域の人々の助けもありながら、自然と共生する島の文化に深く関わってきました。地域の先輩方から学んだことを活かし、自然との共存を大切にしています。
竹富町観光案内人条例については、仕事に自由を求めつつも、保って行くためにルールを設けて共に取り組むことの重要性を感じています。観光案内人から西表島エコツーリズム推進全体構想の「特定自然観光資源」の認定ガイドへの移行は、行政の介入により一つの形として整ってきており、日本で初めて「ガイドがいないとフィールドに入れませんよ」というのは、今まで前例がなかったことです。この変化を受け入れつつ、自分たちなりに何ができるのかを模索しています。
最近では、山のレスキューや詳しいガイドのレクチャーを受けるなど、質の向上に努めています。竹富町観光案内人、登録引率ガイドなどガイドには知識や経験、条例を熟知することが求められます。この制度は、質の高いガイドとエリアの保護のために重要であり、特に地域に根差した関係者が参加し取得することができればより良い結果が得られると思います。そしてこの取り組みはガイドだけでなく、訪れる観光客にも良い影響を与え、地域全体の意識向上につながると思います。
2019年に豊かな自然環境を守るために「携帯トイレ」の導入をスタートしました。この取り組みは、環境省西表自然保護官事務所の方々と西表島カヌー組合、そして携帯トイレを提供する企業との間で協力して進められました。当時、フィールドにティッシュが落ちていたり、臭いが気になる、という声は上がっており、この解決策として導入しました。導入後、利用者からの反応はとても良く臭いも無くなりましたし、事業者だけでなく訪れるゲストの方にも自然保護の意識が根付いたことはとても良い事だと思います。しかしながら、処理費用が発生するため、継続的な補助金だけに頼ることは難しいという課題があります。今後導入されるかもしれない訪問税などを活用できないかなと思っています。
インフラ整備に使用される訪問税の費用については、金額の高い低いではなく重要なのはその費用が何に使われるのか、具体的に説明することです。例えば、1万円を徴収した場合、それによってより良い診療所が建設されたり、町民や住民の生活の利便性が向上するなど、具体的な利用目的が明確であれば、支払いに対する理解が深まります。例えば最近では、新しい船の建造やトイレの増設設置予定など、具体的な改善策が進められています。
しかし、これらの情報が十分に共有されていないこともあるので、その資金がきちんと島に活かされていくことを僕ら事業者もお客さんに伝えつつ、島全体でインフラ整備のための目的税なのだということを打ち出していく必要があると思います。
地域に根ざした人々や、お客様を大切にする業者が増えることが望ましいです。実際にあったことですが、困っている観光客がいて、声をかけあい適切なガイドを紹介して、お客様がその日を無駄にせずに楽しむことができました。後に観光協会にお礼の連絡がきました。このような役割を果たしてくれる人がいることは素晴らしいことです。ガイドでなくても、困っている人がいれば手を差し伸べる、話を聞くといった行動が取れる人が増えて欲しい。お客さまが笑顔で帰れるような努力をしてくれるガイドが今後も増えることを願っています。
独立するのが同年代の中で遅かったこと、そして同業者からの助けを受けた経験から、お客さんの奪い合いをしたくないという思いを持っています。西表島を訪れる人々に最良の体験を提供したいと考え、より寄り添うことができるようになりたいと思っています。また、訪れる人々が困っていれば、何とかしてあげたいです。
お客さんと地元の人たちのコミュニケーションが取れたりとか、僕が来た当時の島ってそういう温かさや人の繋がりがありました。
事業の規模が大きくなり、観光が発展する中でも西表島の本来の魅力を失うことなく、西表島を好きで訪れる人々に対して、「いつでもウェルカム」というメッセージを伝えたいです。このような思いを持って、観光客に対してより良い体験を提供し、西表島の魅力を伝えていくための制度であって欲しいと思います。