国内有数の観光リゾート地としての発展を遂げた恩納村は、サンゴ礁海域をはじめとする豊かな自然環境を最大の財産とし、村の未来を形作ってきました。長年にわたり、恩納村環境保全条例を通じて、環境に配慮した土地利用、排水規制、赤土の流出防止など、環境保全に関する厳格な対策を実行してきました。さらに、地元漁協を軸にオニヒトデの駆除やサンゴの再生活動を展開し、目覚ましい成果を挙げています。これらの取り組みを踏まえ、「サンゴのむらづくりに向けた行動計画」を2017年に策定、翌2018年7月21日には「サンゴの村宣言」を行いました。この宣言により、恩納村は環境への配慮を最優先とする持続可能な社会づくり、そして自然と共生する地域づくりへの取り組みを行っていきます。2019年7月には内閣府よりSDGs未来都市への選定を受けるなど、新しい展開が続いています。
「サンゴの村宣言」が行われる前から、恩納村ではサンゴの保全活動に取り組んでいました。1990年代後半にサンゴの白化現象が発生し、漁業への悪影響が明らかになりました。この状況は、科学的な根拠はないものの、サンゴ衰退が原因であると考えられ、保全活動への関心が高まりました。これがきっかけとなり、恩納村役場を中心にサンゴ保全にさらに力を入れることで「サンゴの村宣言」へと繋がりました。
恩納村は、様々な団体や施設との連携を図り、持続的な取り組みができるよう長期的行動計画を策定しました。「環境」「経済」「社会」3つの分類で課題を捉え、その施策としてサンゴの植付活動、リーフチェック、ミツバチを利用したHoney & Coral Project、Green Fins、企業版ふるさと納税、学校教育プログラム、HP・動画等の情報発信など様々な取り組みを行っています。
恩納村マリンレジャー協会は、地域との連携を深めながら安全対策、自然保護、そして誘客活動を積極的に行っています。恩納村役場の呼びかけを受けて、同協会はGreen Finsの取り組みにも踏み出しました。会長である内原靖夫氏は、恩納村の貴重な海を持続的に活用していくためには、事業者間での個別の取り決めだけではなく共通のガイドラインが必要だと以前から考えていました。
Green Finsにはサンゴの上を歩かない、魚に餌付けをしないといった、事業者とゲスト双方に適用される行動規範が含まれており、これが環境保全意識を向上させるのに非常に効果的であると考えられています。この国際ガイドラインGreen Finsを恩納村は日本で初めて導入し、地方自治体が主導しての導入は世界初となります。現在、同協会には48の事業者が会員として登録されており、Green Finsへの取り組みにはさらに多くの事業者からの賛同が寄せられています。
※Green Finsとは- UNEP(国連環境計画)とイギリスのReef-World財団によるサンゴ礁保全の取組み。環境に配慮したダイビングやシュノーケリングのガイドラインの作成と、それを遵守しているダイビングショップの評価・認定を行なっています。世界ではフィリピン・ベトナム・タイなど各国の中央政府主導で14カ国、約700のダイビングショップに採用されています。
Green Finsの導入により、事業者間で環境保護に対する意識が高まり協力体制が整ってきました。しかし、マリンレジャーを楽しむ目的で訪れる観光客に対して、保全活動の重要性を伝えることは容易なことではありません。それでも、ダイビング時に「Green Finsの規範に従い、サンゴに触れることはできません」と説明することで、多くの観光客がサンゴの現状を理解し、保全活動への参加意欲を示しています。
餌付けなどの行為は一時的な楽しみがありますが、サンゴや魚への触れ合いは生物にストレスを与え、最悪の場合、生態系のバランスを崩しその場所の自然環境を損なう恐れがあります。恩納村マリンレジャー協会では地域連携にも力を入れており、恩納村漁協のサンゴ部会でサンゴの植え付けを行い、協会はリーフチェックを行い、広報活動は恩納村役場が担い、各分野の専門家が力を合わせることで、より広範な保全活動が可能になっています。
このような協力体制は、持続可能な海の活用と生物多様性の保護には欠かせない取り組みになりました。
コロナ禍で海へのアクセスが減少した期間は、サンゴが自然に増えていく現状を目の当たりにしました。これは、人間活動がサンゴ礁に及ぼす影響の大きさを改めて認識する機会となり、観光と自然保護のバランスをどのように取るべきか、新たな考え方が求められていると思います。
恩納村は海だけでなく、農業も重要な産業であり、赤土問題も海への悪影響を与えています。そのため、農業面からの改善策も求められており、Honey & Coral Projectやさとうきびの葉ガラを敷き詰めて赤土流出を防ぐなどの独自の施策が行われています。
恩納村 農業環境コーディネーターである桐野 龍氏は「「サンゴの村宣言」が浸透しているおかげで赤土の流出がサンゴに悪影響があると理解があり、みんなで取り組んでいく姿勢があります。防止や抑止だけでなく産業化まで取り組みができていることを「赤土流出防止の産業化」と呼び、持続性を考えたら利益を生み出すことは大切なことです。赤土対策をしたら利益が出て産業化まで発展できれば、自ずと赤土対策に取り組んでいくと思います。」と話しています。
Honey & Coral Projectとは海洋環境保全という難しい課題に対して、可愛いミツバチや甘いハチミツを利用することで赤土流出問題や環境学習を楽しいイメージにしていく取り組みです。さらに、環境指標生物という特性や様々な花に受粉することで一定の植物多様性をもたらすため、「ミツバチを利用した村づくり」に発展しています。
養蜂を行うことで赤土流出問題への関心を高めるとともに、養蜂技術を習得することができれば、農家さんの副収入源として蜂蜜を生産・販売することができるようになります。
次世代を担う児童生徒にも教育学習として赤土対策を行っています。農業と赤土流出対策をセットで考えることが当たり前になるように定期的に学習を行っています。子供たちが自主的に、これからの課題解決に向けて意識を持つことを目指しています。
その他学校教育として、SDGsパートナーシッププロジェクト『UNNA魂Project』として恩納村立うんな中学校3年生の生徒が、企業と共同で「新たな地域の価値づくり」をテーマに、地域課題を解決するプロジェクトを実施しています。事例として、特産品であるパッションフルーツを使った「パッションフルーツ酢“パっと酢まいる”」や環境に配慮した日焼け止め「ちゅらかふUVカットミルク」、などの商品開発を皮切りにカルビー株式会社と共同で「堅あげポテト でーじまーさんアーサそば味」は現在でも、道の駅や空港で販売しています。
これらの活動を通して、恩納村は地域の自然環境を守りながら持続可能な発展を目指しており、その取り組みは地域経済の活性化にも寄与しています。
恩納村はSDGs未来都市の選定を受け、自然環境に優しい地域づくりの取り組みを推進しています。取り組みとして、「サンゴ寄附金」と称した寄付を募り、その寄付金を活用してサンゴの植え付けの実施や、サンシャイン水族館と連携して行われたサンゴを海に返す再生プロジェクトなどを行ってきました。
企業の連携だけでなく役場が中心となって周知啓蒙活動の一環として毎年3月5日(サンゴの日)に行っている、恩納村Save The Coralプロジェクトでは、サンゴの植え付けやビーチクリーン活動などを通じて自然環境の保全意識を高めています。また、サンゴの村フェスタでは村外の関係者も巻き込んだイベントを開催し、スタンプラリーやワークショップを通して自然環境に対する意識の向上を図り、豊かな自然環境の保全と育成、地域資源を活かしたブランドの確立に努めています。
観光客には、恩納村の環境に対する配慮を理解してもらうことを目指し、また村民には年齢や性別に関わらず、安心して暮らせるむらづくりを進めています。サンゴの村宣言以降、村民やさまざまな団体との連携が強化され、環境保全への意識や取り組みの基盤が向上しています。恩納村のこれらの取り組みは、自然環境と共生する持続可能な社会を目指す上で、重要な一歩を示しています。地域住民や多様な団体との連携をさらに深め、恩納村の魅力を国内外に広く発信することが、持続可能な未来への道を切り開く鍵となります。